昨日は、緊張しているのが、自分でも分かった。
昨晩は、人生で2回目となる安定剤を服用して就寝した。
1回目は今から15年ほど前である。
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さて、今朝は予定通り2時に起床。
ついに来た決戦である。
今朝は、もうやるしかない、なるようにしかならないと覚悟を決めたので、いつもの自分である。
今日は、本気モードである。
一年掛かりでトレーニングして来たし、仕事も休んで来てるし、周囲に出場することを言ってしまったし、ゴールするしかない状況だ。
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さて、スイム3.8キロの制限時間は2時間20分。
バイク180.2キロはスイムスタートから10時間30分。
ラン42.2キロはスイムスタートから17時間である。
バイクは途中関門があるので、自転車に関門時間をコピーした紙を貼っておいた。
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さて、スイムは予想以上に早く泳げてテンション↑↑
気持ち良くバイクスタートが出来た。
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競技説明会では、暑さ対策と寒さ対策の説明が強調された。
長丁場なので、日焼け対策&寒さ対策として、バイクでは長袖かアームカバーをするようにと言うアドバイスをもらった。
私は、アームカバーをすることにしたが、な・な・なんとバイクスタートして5キロ経過した時点で、周りの選手のアームカバーが目に入り、
自分の腕を見ると、アッ!アームカバーしてない!
やべ~~!
仕方が無い。
大丈夫だ!大丈夫だ!と自分に暗示をかけた。
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年齢順のスイムスタートなので、9分早くスタートし、10分遅くバイクスタートしたスイムが苦手な眞野先生。
昨日の作戦会議では、100キロからのヒルクライムの前に貯金をしておく作戦に出ると言っていた。
今年は、ニセコアンヌプリヒルクライムバイクレースコースをそのまま取り入れたので、苦しんで楽しんで下さい、と言っていた。
15キロ延々と上りが続くらしい。
車での下見でも、長かった。
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さて、15分おきに補給食を摂る作戦を実行していたら、40キロ地点で、早くも胃に拒否反応が起こり始めた。
やばい。
肝心要のエネルギー補充である。
ゲップが止まらず、固形物は受け付けてくれない。
100キロ過ぎにと思っていたH2ブロッカー(胃薬)を早々と投入。
30分程すると、ゲップが止まった。
恐る恐る羊羹を口にすると、受け付けてくれた。
ふ~~~。
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44キロ地点で
「丸山先生~~」という声が後ろから聞こえた。
眞野ちゃんの声である。
「早~~~」
昨晩の作戦通りである。
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話しでもしたかったが、バイクは常に周りの選手から10メートル以上の距離をとること、抜かすときは右側から20秒以内にメートル以上離した距離をとると言うルールがあり、違反するとペナルティーが科せられる。
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眞野先生の姿が段々、小さくなっていった。
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70キロ地点でUターンする場所があるが、坂道を下りきった所に180度のUターンがある。
曲がっている道なので、Uターンのコーンが直前まで見えず、スタッフは両手でスピードを落としてのジェスチャーをしていたが・・・・周りにスピードに乗って進んだ所、前の選手が急ブレーキをかけたので、焦って私も急ブレーキをかけるが、ぶつかりそうになった私は、何故かギヤーチェンジをしてしまった。
これがまずかった。
ガシガシガシ!
チェーンが外れてしまった。
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降車して見ると、今までに経験したことが無いような激しい外れ方である。
小さい隙間にがっしり入り込んで、かつ半分が外側に飛び出てしまっている。
5分程、頑張ったが、どうにもならない。
テクニカルサービスを頼むと来てくれるが、1時間程かかると聞いていた。
1時間待ったら、関門突破できない。
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頭には 〝蛍の光” の音楽が流れた。
丸山誠二の夏、バイク70キロ地点で終了。
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近くの砂でも記念に持って帰ろうかと思った。
甲子園ではない。
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近くのスタッフを呼び、自転車を押さえてもらい、力づくでチェーンを戻そうとするが駄目。
今度は、自転車を持ち上げてもらい、チェーンを引っ張りながら、ペダルを動かすと、チェーンが少し動いた。
これはいけるかも・・・・・・、何回かすると、いつもチェーンが外れた状態、つまりチェーンが内側に入った。
よ~~~し!
思わず、雄叫びをあげてしまった。
スタッフに丁重にお礼を言い、再スタート。
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98キロ地点でスペシャルエイドがある。
100キロからのヒルクライム前に、栄養補給しておけ!という配慮だろう。
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ようやくたどり着くと、栄養補給している眞野先生を発見。
「眞野先生~~~~~」
「丸山先生~~~~~」
知っている人がいるだけで気持ちは落ち着く。
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私は、トップテン、リポビタンD、缶コーヒー(ボスの贅沢微糖)の3本を一気に飲み干し、
「ここからだね、頑張ろう!」と声を掛けあい、眞野先生と同時にスタート。
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115キロ地点まで、15キロの延々に続く上り坂。
何回も心が折れそうになった。
高校生の頃から、苦しい時、口ずさむ歌がある。
布施明の "負けちゃいけないよ" である。
回りに選手がいない時は、大きい声で、居る時は心の中で歌い続けた。
歌でも歌わないと、頭がおかしくなりそうな状況である。
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足もパンパンであり、結局1時間30分かかってしまったが、何とかクリア。
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水を補給しようとすると、
「水が終わってしまいました。すみません。水のスポンジならあります。」
まじ?
ここで水を補給できると思い、持っていたボトル2本の水は体を冷やすのに使い切ってしまっていた。
残量は300ccほどしかない。
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次のエイドは30キロ先である。
仕方が無い。
取り敢えず、火照った体をスポンジで冷やした。
競技説明のアドバイス通り、皆、ここから始まる、木陰の下り坂での低体温症対策に、ウィンドブレーカーを着ている。
火照った体にウィンドブレーカーを着る行為は異様である。
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GARMINの計測メーターを見ると、平均速度21.2キロ。
この激坂で貯金を使い果たし借金してしまったようだ。
22.0キロが必要なのだ。
やばい。
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眞野先生は、私より9分早いスタートなので、私よりヤバい筈だ。
眞野先生は、いざと言う時は、やる男だ!眞野ちゃん絶対関門突破してくれよ!と思い、防寒具を着て、お先にダウンヒルにスタート。
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山の下りはくねくね道である。
更には、対向車線は交通規制がかかっていないため、車が走っている。
しかし、みな、関門突破を考え、スピードが出ている。
流れに沿ってスピードメーターを見ると55キロである。
早い。
怖い。
対向車線で車とすれ違う度に、冷や汗もんであるが、そんなこと言っていられない。
ちなみに、50キロ制限の標識がかかっていた。
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さて、そこに、後方からパタパタパタっと、ウィンドブレーカーの音が聞こえる程の猛スピードで、一気に駆け降りる選手が居た。
対向車ギリギリのラインを縫いながらの攻めの下りである。
よく見ると、眞野先生である。
おそらく時速70キロは出ていたのではないだろうか。
一気に姿が見えなくなった。
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勝負に出たな、眞野ちゃん。
頑張れ!
思った通り、やる男である。
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練習では、下りは怪我が怖いからと言ってスピードは出さない眞野ちゃんであったが、今日の眞野ちゃんは一味違った。
関門突破の為の、形振り構わぬ攻めである。
アドレナリンが半端なく分泌され、恐怖感は既にないのだろう。
まさしく勝負である。
アイアンマンになるという事は、こ~~ゆ~~ことである。
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その後も、ゴールまでアップダウンが続き、最後の最後まで苦しめられた。
結局、眞野先生とほぼ同時にバイクゴール。
平均速度21.6キロ。
タフなコースであった。
予定の23キロには程遠かった。
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眞野ちゃんと一緒に、ランの準備をして、最後のランへ。
二枚重ねで着た半袖のバイクジャージを脱ぎ、タンクトップのトライスーツに一枚にし、背面ポケットには梅干しチューブと雨対策にウィンドブレーカー、そしてロキソニンと胃薬を入れ、ウィダーインゼリーとバームゼリーを補給し、スタート。
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あとはランだけだ。
筋肉を酷使した状態にも拘らず、今から待ち受けているのがフルマラソンなのに、あとはランだけだと思えるのは、頭がいかれている。
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ランが始まると、急に元気が出て来た。
最も得意としている種目であるからだ。
いやらしい話だが、人を追い抜くのは、気持ちが良い。
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さて、途中に、眞野先生と会い、これをクリアすればアイアンマンだ、とハグして別れた。
私はその気はないので、男同志でハグしたのは、初体験である。
その証拠に3日間同じ和室に布団を隣り合わせに敷いて寝たが、何もなかった。
当たり前である。
今や、戦友である。
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20キロ過ぎ、足の感覚がおかしくなって来た。
右脚の関節全部が痛い。
またゲップも、出始めた。
急いで、ロキソニンと胃薬を用意し、次のエイドで服用。
レース中に薬を飲むのは、人生初である。
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この時間になると、辺りは真っ暗。
100メートルほど置きに設置されている明かりだけが頼りである。
前の選手は勿論、自分の足元も見えない真っ暗な夜道である。
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暗闇の中に浮かぶ所々にある明かり、自分の体の感覚も今までに経験したことの無い異様な感覚、全てが異様な状況におかれ、自分の意思とは別に、ただ自分の足だけが動いていると言う感じである。
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苦しいとか痛いとか、そんな単純な表現では言い表せない、言うならば “異様な感覚”である。
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30キロ過ぎ、その異様さは更に増して来た。
きつい時、辛い時は歌を歌って凌いできたが、ここまで来ると、歌を歌う気力も、歌おうとする発想すらない。
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何も考えられない。
これぞ 〝無心” であろう。
空手の奥義である。
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ラスト5キロ頑張って!という声援が聞こえた時は、目頭が熱くなって来た。
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一年かけた50歳のバースデープレゼント。
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異常に盛り上がっているゴール会場。
外人のアナウンスが、一人ひとりの名前を放送している。
多くのスタッフが出迎えてくれている。
50メートルほど続く、ゴールまでの道の先には、今までの暗い夜道とは対照的に、明るい会場がある。
このコントラストがたまらない。
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そして、ついに終焉を迎えた。
感動のゴール。
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自然と、ガッツポーズが出た。
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公式記録
スイム1時間25分08秒
バイク8時間18分16秒
ラン4時間38分48秒
TOTAL14時間43分14秒
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しばらくして、真野先生もゴール。
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戦友との再会。
実に感動的であった。

しかし、もうこのバイクコースは二度と走りたくない。
そして、暫く運動は、したくない。
お腹一杯である。
真野先生との共通見解であった。
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しかし、一生忘れることが無い最高の50歳の誕生日プレゼントになった。
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完走した人だけに与えられる、完走メダルとフィニッシャーTシャツをしばし眺めて、余韻に浸った。

