非日常体験
今日は、横浜出張。
副院長のかみさんは、有給休暇中なので、今日は、医局長の戸塚先生に任せて来た。
戸塚先生1人に任せるのは、初である。
これは、即ち任せられる技量が付いて来たと判断した証である。
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戸塚先生は、真面目で、コツコツ努力するタイプである。
どんな状況でも決して取り乱すことのなく、常に冷静に物事を見る事が出来るので、歯科医師として、最も大事な素質を持ち合わせているのではないだろうか。
素質は、先天的な物なので、後天的な努力では、どーにもならない。
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さて、今朝の話。
先方との約束時間は、9時30分。
余裕を持って、9時には現地に到着しようと計画を立てた。
その為には、藤枝駅7時10分の電車に乗る必要があった。
通勤、通学ラッシュの時間と考え、昨晩、藤枝駅で切符を買っておいた。
切符はあるので、10分前の7時に藤枝駅に到着すれば大丈夫と判断し、6時45分に自宅を出発。
予定通り7時ちょい前に、藤枝駅到着。
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改札に上ったら、売店に寄りモーニングコーヒーでもと考えていた私の頭の中のスケジュールが、一気に崩壊する光景を目にすることになった。
改札は、通勤、通学の人々でごった返しているではないか。
携帯を耳にあて、深々と頭を下げて謝っている人もいる。
時間厳守の営業マンであろうか。
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発車時刻を表示している電光掲示板を見ると、『調整中』の文字だけ。
窓口で、真っ赤い顔をして苦情を言っている人が居たので、程良い距離感で近づき現状を聞くと、大雨の影響で、メドが立たないらしい。
ただ、島田駅で待機しているということだった。
静岡駅までタクシーで行くか、このまま待つか、走って行くかの三択である。
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約束の時間に到着する唯一の方法は、ここで待つことである。
タクシー、ランは、遅刻となる。
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…という訳で、ここで待つことに賭けた。
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結局、思ったより早く約18分遅れで電車が到着。
何本か分の乗客が一気に乗り込んでいるせいか、ほぼ満員状態である。
何が何でも乗り込んでやるぞと強い気持ちを持ってドアが開くのを待ったが、私は前から6番目くらいなので、前の人が諦めたらどーにもならない。
頼むぞと、思っていると、そんな心配は全く必要なかった。
この時間の乗客は、私以上に厳しい状況に置かれているのだと言うことが分かった。
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私の後に10人程入っただろうか。わたしは、入口のドアから1メートル位の所で収まった。何とか乗ることが出来た。
一安心し、前を見ると、目の前には、見た所、30歳代の女性が居た。
ヤバイ。
"冤罪"の二文字が、頭によぎった。
バッグを床に置き、両足で挟み、右手は吊り革に、左手は左ポケットに入れ、顔は、出来る限り反対方向にした。
冤罪対策は、どれだけやってもやり過ぎと言う事は無いだろう。
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もし、この女が、失礼、この女性が、『キャ〜!』と叫んだら、どーしよーと考えた。
慌てて声が裏返ってはいけない。
冷静且つ理論的に、さらには威厳を待った応対をしなくてはいけないだろう。
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頭の中でシミュレーション。
『キャ〜!』
中尾彬張りの低音で、冷静に、
『何を言っているやんだ。もし、私の手が、貴女の身体に触れたのなら貴女の服に私の指紋が付着している筈だ。もし、着いていなかった場合の覚悟がおありでの発言ですか?乗客の皆さんも発言には、十分気を付けて下さいよ。』
触れていない確固たる自信があるから堂々と言える。
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そんなシミュレーションをして時間潰しをしていたら、西焼津駅に到着。
ホームは、人で溢れかえっていた。
しかし、もー入れないだろうと思っていたら、何の何の10人程が、乗り込んで来た。
私の立ち位置は、1メートル程中に押し込まれた。
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周りは、おっさんと男子学生。
もう、先程までのシミュレーションは必要無くなった様だ。
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更に、焼津駅、用宗駅、安倍川駅と、強引な乗客が乗り込んで来て、ついには、入口と入口の真ん中まで、押し込まれた。
安倍川駅から静岡駅までは、最高にぎゅーぎゅー詰めであった。
その区間の目の前は、奇しくも70歳前後の女性。
残念ながら、私には、そんな趣味は無いが、世の中には、色んな人がいる。
油断大敵である。
盤石の体勢で静岡駅を待った。
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当然だが、キャ〜も、ギャーも無いどころか、うんもすんも無かった。
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しかし、世の中、何が起こるか分からない。
常に気を張って行くべきであろう。
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私にとっては、非日常な貴重な通勤ラッシュ体験であった。