土用丑の日の出来事
午前中の最後の方の診療中の出来事。
20代後半の男性患者。
思った事をハッキリと言葉に表す患者さんである。
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赤い顔をして診療室に入って来た。
仕事の合間を縫って、急いで来てくれたのだろうと判断した。
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夕方や土曜日は大変混み合うので、ウィークデーの早い時間に、時間を作って来てくれる患者さんには感謝である。
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さて、アシスタントは実習生。
静岡歯科衛生士専門学校の3年生が、丸山歯科医院に臨床実習研修をしている最中である。
緊張した面持ちで、アシスタントにつく実習生。
横には先輩の歯科衛生士が付き、指導している。
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さてさて、この患者さんの今日の治療は、下顎の大臼歯の虫歯の治療。
深い虫歯があるので、歯根膜麻酔と言って、歯茎と歯の間の隙間に麻酔針を入れて麻酔する方法を選択した。
ガチガチの実習生。
臨床実習は、皆、こんなもんである。
緊張感は大事である。
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「〇△さん、麻酔をしますね。」
「はい。」
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「うがいをしますか?」
「します。」
・・・・・
うがいをした後に
「にげ~~~~!」
「麻酔液は苦いんです。すみません。」
「まだ、にげ~~!」
「舌は、前から甘味、塩味、酸味、苦味の味覚細胞があるんです。奥歯に麻酔したので、丁度、苦味の味覚細胞を刺激しちゃったんです。」
「それ、聞いた事がある。」
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数回うがいをして、大きく息を吐いた。
うがいが終わったと判断した私は
「〇△さん、倒します。」
治療台の背もたれを倒した。
倒れながら患者さんの口が開いた。
「ウナギ食いて~~~!!」
「食べたいですね~~~。今日は土用丑の日ですもんね~。でも高くて庶民には高嶺の花ですよね~~。」
「でも、食いて~~~~!」
「ウナギのかば焼きのタレをスーパーで買って来て、それを温めてご飯に掛けて食べるのも、い~~っすよ。」
「確かに、ご飯がすすみますよね~。」
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こんな他愛のない会話をしていると、緊張していた実習生もクスッと笑ってくれて、緊張がほぐれて来た様で、その後のアシスタントが実に自然にリラックスして出来た様だ。
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ウナギのかば焼きのタレを買うお金があれば出来るが、もしタレを買うお金もなければ、最後の手段がある。
ご飯を持参し、直接、ウナギ屋さんまで出向き、お店の前で匂いを嗅ぎながら、そこでご飯を食べる。
天才バカボンの一コマである。
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そんな話をしていたら、私自身が、妙にウナギが食いたくなってきてしまった。
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雑念はいかん。
そ~~思い、邪念を振り払うため、昼休みはバイクを乗りにリバティーへ向かった。
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汗をかけば邪念は無くなる!
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そ~~信じて、必死でペダルをこいだ。
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周りを見渡すと、誰も居なかったので、思わず叫んだ。
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「ウナギ食いて~~~~~!」
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帰宅後、冷凍庫を開けると、ウナギのかば焼きのタレがあった。
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よ~~~~し!
右拳をグッと握りしめた。
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夕ご飯が楽しみだ。